洋書写真集とアートブックの専門店

No. 8870
茂木玲子/Reiko Mogi: 魚河岸
3,200円(税込3,520円)

魚河岸で…私は何の知識もなく築地場内市場に足を踏み入れた。無数のターレがぶつかり合うようにスピードを上げる。薄暗い場内には男の力強い声と汗が弾ける。目を凝らすと古びてヒビの入ったコンクリート壁の刻の経緯を伝える落書き、私には受け入れがたい言葉も見える。海水で濾過した水が流れる通路は天井からの濁った灯りで怪しく彩を変える。足元に突然形をなさぬ模様が浮かび上がり驚く。捌かれた魚の生々しい部位が、血変色のバケツが普通に置かれている。捌き人の鋭い眼球、盛り上がった腕の筋肉、整える呼吸まで伝わってくる。ここは未知の世界。光と水、人と影の異空間。カメラを持ち一人歩くのは怖い。否定の視線がある。「どこから来たの?」「酒田から」その一言から会話になり強張ってた互いの顔が少し笑みになる。ふと見ると今迄気づかなかった黄色の手袋、散乱している古いメモ紙、木製引き車の錆た車輪が見えてきた。大型トラックの音が聞こえる。シルバー車体には夜の魚河岸がくっきり浮かび上がっている。この全ての瞬間を肌で感じ、愛おしみ静香に撮らせていただく。一人の男との出会いがセリ場へと繋がった。セリ場に並ぶマグロの冷気、男達は今日の一匹をじっと目を凝らし見極めている。熱気が伝わる。セリが始まり男の指が動き鐘がひびく。私は緊張し硬くなり壁にへばり付き迷惑にならぬようにほんの少し動く、撮れない。セリ場独特の空気感、冷気、熱気、静寂、活気に圧倒され撮る様を忘れた。魚河岸は驚きと緊張、そして感動の連続、生涯わすれぬ時となった。83年経て老朽化した建物、天井、海岸、ひとつのガラス窓にも錆びた歴史の美がある。黒・茶・赤錆がたまらなく愛おしい。薄明りの人影、水反射にみせられどれほど夢中になったことか。魚河岸魂に触れ心揺さぶられ、永遠の刺激を確かに受け取りました。ここ魚河岸で出会った全ての方々に心より感謝申し上げます。2018年10月、83年続いた魚河岸は消えた。-茂木玲子 87p 23x23cm ハードカバー 2020 Jap/Eng

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